智代アフター体験版

 『PUSH!!』誌11月号付録の『智代アフター 〜It's a Wonderful Life〜』体験版をプレイ。いきなり通い妻エロスが四連発ぐらいありました。ちなみに最初に出て来る選択肢が《普通にキスをする/息にこだわる/唾液にこだわる》の三択。で次は靴下だ。こういう、唾液とか体臭とかで汚れ合う感じ、というのはエロに限らず麻枝准はよく書く、というか『CLANNAD』の智代シナリオでもさんざん出て来る。もっとも、例えば長森とクレープを食い合うのは相手の唾液を意識するほどには他者として意識してないからで、エロスとなるとむしろ意識した上で想像的に他者との距離を消去する、ということに力点があるわけだが。なんか岸田秀みたいだなこの言い方。
 ともあれ、Kanon以降はなにやら鬱々とした離人症めいたエロが目立ったのですが、こういう幸せなものもまだ書けるんですな。なんか浩平が消えずに七瀬と付き合い続けたみたいだ。
 しかし、好きな女の子とひたすらいちゃいちゃごろごろ、なんて幸せなものを麻枝准が書いてくれるはずもなく。いいんですもう諦めてます惚れた相手が悪かったんです。

 えーと。で、序盤通い妻エロス中盤ホームコメディ(なんか『愛してるぜ☆ベイベ』を思い出した)、終盤菊次郎の夏? というのがなんとなく伺い知れる感じなのですが、もっともインタビュー読む限りでは、体験版で触れられた範囲よりもずっと先まで話が続くように思われるので終盤と言っちゃまずいかもですが、まあそのへんについては置く。いやほら、今更「夏」と「旅」そして家族、というモチーフについて言及すんのもあれだし。何がいいたいかというと、またしても宗教か。宗教なのか。FARGO宗団か。『せっぽう』か。心弱い母親は宗教に走るのですか先生。
 まあ、まだ確定じゃないけど。というか某キャラの適当な与太の域を出ない。が麻枝准において周知のように頻出する「家族」というモチーフに、ほとんど常に宗教あるいは何らかの信仰の影がさすこと、に我々は気付かぬわけにはゆきません。そしてまた、これまで天沢郁未や折原浩平の母親が宗教に走った理由や経緯について語られたことはなかった。だが今回はもしかしたら。なにやら受信しすぎですか俺。

 It's a Wonderful Lifeのネタ元はたぶんは映画『素晴らしき哉、人生!』の原題ですね。個人的にはウィトゲンシュタインの最期の言葉ですが。ジェイ-グールドや一億匹のワンダフルライフ達では「人生」にならないし、というか惹句は「人生の宝物を探しにいこう」である。エロゲーで人生かよ、という突っ込みは『MOON.』の時点で済ませておくべきだろう。デモでもほとんどくどいほど「人生」という単語が出て来る。

 朋也たちはまだ十代のガキで、人生を語るには早過ぎる。だが我々に必要なのは青二才の人生論だ。とかいう以前に僕はそういう背伸びの仕方が嫌いではない、そこにはちゃんと特別な(過剰な)意味が込められていて、そういう過剰さが嫌いではない。最近アニメ『LOVELESS』を観たのだが、立夏が#1と#11で「人生」という言葉を使っていたのがやけに印象に残った。

 ところで河南子、そのトリックは既出ですぜ。犯人がぺらっぺらなやつ。

 あとはまあ、朋也は念願の一人暮らしというやつなんだけど、部屋がすっかりたまり場と化していて、晩方ともなれば、六畳間に五人、それぞれ勝手に過ごしている。特に一緒に何かやるでもなしに(やることもあるけど)ただ一緒にいる、というのはツボっちゃあツボ。物理的に近い場所を占めている、というのが重要であるという話は石川忠司『現代小説のレッスン』の保坂和志の章を参照されたい。あれ『AIR』に使えるよ多分、と言っておく。

 一色ヒカルの智代はなかなかに良し。なんというか真率な感じがして。なるほど智代はこういう風に喋るのか、という納得感がある。ちょっと線が細すぎる気がしなくもないが、智代は普通に女の子らしい声で、そういうのに本人はまるで無自覚げな所がありそうっちゃあそうなので。なお麻枝准もお気に入りらしい。
 涼森ちさとは十全だが、無駄にハイスペックな感じがなくもない。ただ河南子の口調がかなりいい。ともさん、と子供にいちいち敬語で呼びかけるのが、ちょっと癖になりそうな感じだ。それでいて普段はけっこう口が悪いのである。こういうキャラが声付いても説得力を失わないってのはまあ見事なんだけど、これどちらかといえば、声付けた場合ありうるマイナスをいかに抑えるかって話でねどうにも。