観鈴ちんの風下で

 くつしたについては縁なき衆生なのですが、観鈴ちんの風下で、というフレーズがいたく気に入ったのでリンク。
 もちろん本編では二回反復される重要なシーンである。ちなみに納豆きらきらといえば川澄舞、というのはさておき。

【往人】「出会ったときも、そこでそうしていたな」
観鈴】「うん」
観鈴】「空はね、小さい頃から、ずっと思いを馳せてた」
【往人】「どうして」
観鈴】「わかんない。ただ…」
観鈴】「もうひとりのわたしが、そこにいる」
観鈴】「そんな気がして」
風が吹く。風上に立つ観鈴の匂いを含んで、俺を通り抜けた。

【みすず】「ね、後ろついてくるの。ここ」
ぽんぽん、とお尻を叩く。
そのお尻に触れたらいいのだろうか。
でも、そこまでは高い。
口を伸ばしてみても、まだまだある。
だから、跳ねてみた。
落ちるとき、自然に羽根が開いた。
ばっ…
【みすず】「そうっ!」
彼女が喜んでくれた。
だから、ぼくもそれを繰り返す。
ばさっ…ばさっ…
すると、彼女が走り出した。
追いかけなければ。
跳ねながら走る。
ぱたぱた…
空気の動きを感じる。
彼女の匂いが混じった風が、ぼくの体を吹き抜けてゆく。
気持ちよかった。

 引用してしまうと、もう駄目だった。観鈴のケツを追いかけてえ
 さて観鈴ちんの匂いである。汗とか。往人が観鈴ちんとえろいことをするシーンでは、病床の観鈴ちんは何日も風呂に入っていないわけですが、往人さんはそんな観鈴ちんの胸元に鼻突っ込んで匂い嗅いだりします。このヘンタイ! と言いたいところですが、むしろ単に子供です。もしくは(同じことですが)寂しいヤツです。ひとの体温どころか体臭まで恋しい、というのが麻枝キャラの基本です。後に観鈴ちんも「おかあさんのにおい」とか言い出すので似合いのカップルです。
 MK2さんは「聖遺物」といった。実際それは「生活感」とはどこか異質のなにかである気はする。おそらく観鈴ちんの匂いとは、もっと切実というか切羽詰まったというかのっぴきならないというか、なんかそういうあれとして登場します。カラスにとっては観鈴ちんの体臭の残響する範囲は「安心できる*1場所」です。ふとんとかぬいぐるみとか。これは彼の生存にかかわるのっぴきならない条件として感得されます。往人さんにとっては観鈴ちんの匂いとは、観鈴ちんの存在そのものを確かめるよすがです。胸元に鼻突っ込んで汗の臭いを嗅いで、ようやく彼女は肉体を持った実在としてそこにいるのだ、というわずかばかりの安心を得る。あるいは、さいしょに引用した堤防のシーンでは、観鈴の匂いとは彼女が抱え込んだ想念の影である。それは実在の体臭が大気をとおり過ぎるのではない。神尾観鈴という存在の意味が、国崎往人の心情を、とおり過ぎる影だ。

*1:つまり、未知の危険に満ちた世界で唯一安全な