中村九郎『ロクメンダイス、』

 《心は誰しも持っている、それだけが揺るぎない真実だと判断しました。》(あとがき)

 よってそれ以外の全ては不確かで、手応えがない。そういうノリ。
 それでもまあ言葉(記号)は例外的に確かだが、意味のほうは定かでない。または、意味が定かでないにしろ言葉は確かな実在である。『黒白キューピッド』同様、世界の建材が言葉であることを容易に見てとれることであろう。一応は主人公に、全部自分の妄想なんじゃないか、ぐらいのことは言わせているけれど。
 視点が一人称固定であるぶん『黒白〜』よりは普通に読める。主人公の認識可能な範囲を越えた言明が見られない、という点において。