森瀬繚・静川龍宗『うちのメイドは不定形』

 僕たちが食事をとっている台所には、一般のご家庭ではあまり見かけない調度品、ホワイトボードがある。テケリさんがやってきた翌日にホームセンターで急遽購入したもので、二人が一緒に暮らすためのルールや、学校の僕に連絡する方法など、僕が作ったテケリさん用生活マニュアルを直接書き込んだり紙に書いて貼り付けたりする場所として活用している。

 憧れるなあ、ホワイトボード。共同生活にはルールが必要だし、いろいろルールを決めてると、なんか共同生活って感じがするよね。一緒に暮らしていくうちに新たなルールが追加されたり、なぜか冷蔵庫にメモが貼り付けられたり、そんな感じで。
 そんなわけで、人外メイドであるところのテケリさんとの共同生活にまつわる平々凡々たるトラブルを解決しつつ日々を過ごす、ただほんとうにそれだけの作品。小さな事件は起きるけれど収まるところには収まる、という点においてより一層そのようである、といった。歪みねえです。
 そして、家族と離れて久しく、いくらか心にわだかまりを抱えた少年は、誰かと共に生きてゆくことを学ぶのでした。なんて正しい物語。
 相手が一人称「私たち」であるところの超古代の不定形生物であるあたりも「異質な他者との共生」という今日的テーマがごめん嘘。テケリさんになら同化され食われてもいい。むしろ食われたい。そして、てきぱきテケリさんに叱咤される兵隊型テケリさんの一体に転生して新たな人生を……。いや、あれ楽しそうなので混ざりたいんですが割と。がんほー、がんほー、しごっとがっすっきー。あい、あい、まーむ! 疲れてるのかな俺。
 なんにせよ、この正調ホームコメディっぷりが和む和む。ラノベとはかくも読んでいて心安らぐものであったのか。抑え気味の文体も児童文学めいた趣き(たまに入る注釈が好き)があってよい。角川つばさ文庫に入らないかしら。

竹宮ゆゆこ『とらドラ10!』

 とはたぶんあまり関係のない話。
 風と木の詩読み返しちゃったよ、とはみのりんの弁であるが、僕も読み返してしまっていた。あと『終わりのないラブソング』と『ハード・ラック・ウーマン』と、『妖精事件』の最初のへん(というか「家出14)」。14歳の女の子が家出しないのはお金がないからです、というフレーズは十代の僕の聖句だった。というか今でもそうだ。
 だってあそこはわたしの家じゃない、お父さんとお母さんの家だもの、と安藤じゅりあは云った。子供には自分の家なんてない。家庭を「持つ」のは大人(の男)の特権であり、子供とはその一部として所有される側のことである。ここには根本的な非対称性がある。これは直接には解消不能で、だから、竜児とやっちゃんが和解するには、泰子もまた誰かの子供である、という回路を経る必要がある。もちろん人はしばしば、親の前ではいくつになっても子供だ。『日本一醜い親への手紙』には、81歳の「子供」の手紙が載っている。逆にいえば、大人、というのはつまり子供を前にした人間のことである。うえお久光の『It/ストラグル』を読めばわかる。
 
 何の話だっけ?

http://www2.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=86431&log=20100607

ふの付く某所より、『Angel Beats!』に寄せて。
「とりあえずこういう方向で話進めるのかなー、と視聴者が思い始めた頃に
 ちゃぶ台引っくり返すのが定例みたくなってきた感はある」
別の某所では。
「近年マレに見るバイアグラ・アニメでありますな。画面の連鎖からの抽象的な還元が許されるのなら、興奮していないのに無理やり勃●させられるような、そういうシナリオ・テクニックが動員されておる」
兎にも角にも世界が不安定で足場がぐらついて、見ていてこれほど猜疑心が刺激されるアニメも珍しい。その記憶は本物なのか、その名前は本物なのか、その別人は本当に別人なのか、その目的は本当に目的なのか、エトセトラエトセトラ。瞬間瞬間のギャグだけがただ楽しい。

――ところで最近凝っているものは?
「ギャルゲーが面白い。『音楽が出る小説』というだけで、ほんとうは革命ものだと思っているんですが。
 二次元の女のコとイチャイチャするのは大変楽しいです。
――『ONE』は?
「最高。
(電脳中村征人・vol 0 「創刊号」)

 たぶん十年くらい前のメルマガにそういう一節があって。もしかしてこういうことだったのか、と今頃思ったりなどする。
http://d.hatena.ne.jp/gavblog/20100605/1275735625
http://d.hatena.ne.jp/gavblog/20100609/1276081044

片山憲太郎『電波的な彼女』

 2005年の夏のことだ。たまたま小倉駅で立ち読みした『ライトノベルキャラクターズ完全ファイル』(たぶん)の堕花雨に対する作者コメントが随分とみもふたもない代物で気に入ったので買ったのが最初だった。主人公専用のカウンセラーみたいな感じ、とかそういうやつ。そういえば中村九郎は『ロクメンダイス、』あとがきで「主人公を救う、無敵のカウンセラー」について語っていた。
 読んでみるとやっぱり随分と思い切った代物で、ヒロインは、いきなりやって来て、主人公を無根拠かつ無条件(主人公の主観としては)に、守り肯定してくれるのだ。もう本当にそれだけ。ちなみに似たような生物としてはシスプリの妹、『水月』の雪さん、『坊っちゃん』の清、といった存在が挙げられます。

 世界には、私たちを傷つけ損なうためだけに傷つけ損なう、そんな「邪悪なもの」(内田樹「邪悪なものが存在する」、『期間限定の思想』)が多すぎるから、時々あなたに助けてもらわなくてはならなくなる。私たちを、でなければフィクションの主人公を、ただ守り助けるためだけに守り助ける、そんな存在に。
 邪悪なものが常態ならば、善良さは「ないもの」によって担保されなければならない。さきに触れた『坊っちゃん』についていえば、かれの正義感は清によって、つまり既に存在しない封建時代の主従関係と無根拠かつ絶対的な愛と承認、によって保証される。
 主人公に向けられる、無根拠で無条件で絶対的な肯定。つまり、それが電波。
 だが、前世にでも支援してもらわなければ、クラスメイトを殺したシリアルキラーと対峙するなんてできやしない。
 
 別の言い方をすれば、白馬の王子様。
 雨は自分のことを下僕とか奴隷とか騎士とか従者とか言うけれど、そしてジュウは主であり王だとしか言わないけれど、柔沢ジュウがお姫様であることはファンには常識だろう。たぶんトッペンカムデンあたりの女王様だったに違いない。いや、とかく厄介事に首を突っ込みたがるあたりがさ。
 
 あと、お薦めの感想文へのリンク集を置いておきます。
http://b.hatena.ne.jp/imaki/%E9%9B%BB%E6%B3%A2%E7%9A%84%E3%81%AA%E5%BD%BC%E5%A5%B3/

「Kanon的問題」リンク集

 たぶん9割方は『Kanon』とは関係ない。ゲーデルゲーデル的問題くらい。
 たまにリンク切れがありますが、ウェブアーカイブに突っ込めばなんとかなることもあります。ならないこともあるけれど。
 ついき。
 ちなみに、論争と呼べるほどの流れがあるのは(僕が追えたのは、或は捏造できたのは)2005年までです。以降は拡散と再演の観察。「Kanon問題」とは何か、と誰も決定的なことが言えないがゆえに誰にも使える便利なツールと化した、という所見を述べておくとします。
 とりあえず、
http://d.hatena.ne.jp/imaki/20051119#p1

「みんな助かる」のはもちろんKanonとは別の物語ですが、「誰かが犠牲になる」のもまたKanonとは異なる別の物語です。

 最初に読むならこのへんがおすすめ。
http://d.hatena.ne.jp/milkyhorse/20061024
 
それ以前
http://www2.odn.ne.jp/aab17620/10cmr_0.htm
http://april1st.niu.ne.jp/column/Kanon.html
http://tatuya.niu.ne.jp/review/kanon/%5Bkanon%5D(4).html
http://www22.ocn.ne.jp/~pandemon/text/Der_K_index.html
http://www.venus.sannet.ne.jp/natsusho/rev/kanonrev.html
http://www.larus.org/~jun/fragments/kanon.html
http://kobe.cool.ne.jp/jt/kanon/index.htm
http://bx.sakura.ne.jp/~yttlord/oka/ka_r2.html
http://homepage3.nifty.com/taji21/kanon/
http://www.tunnel-company.com/contentsj/hitori/2.html
http://mentai.2ch.net/leaf/kako/969/969790139.html
http://web.archive.org/web/20070403084500/http://www.kt.rim.or.jp/~arm/Arm_ro08.htm
http://members.jcom.home.ne.jp/then-d/html/project.html
2003年
http://homepage2.nifty.com/xgamestation/frombbs/konjaku/001.htm
http://flurry.hp.infoseek.co.jp/200308.html
http://web.archive.org/web/20040810001832/www.geocities.co.jp/Hollywood-Theater/7670/miracle.html
http://web.archive.org/web/20040611142000/asciipad.at.infoseek.co.jp/0308.html
http://web.archive.org/web/20050319141142/www.geocities.com/lovelyaichan2000/11.html
http://flurry.hp.infoseek.co.jp/200309.html
http://imaki.hp.infoseek.co.jp/200308.html
http://imaki.hp.infoseek.co.jp/200309.html
http://www.puni.net/~anyo/diary/200308.html#20030806
http://www.cypress.ne.jp/hp10203249/pp/0308a.html
http://web.archive.org/web/20040803200702/www2.osk.3web.ne.jp/~naokikun/diary17.htm
http://web.archive.org/web/20040803201817/www2.osk.3web.ne.jp/~naokikun/diary18.htm
http://kaolu4seasons.hp.infoseek.co.jp/Diary/200308.htm
http://www.page.sannet.ne.jp/hirasho/diary/diary0309.html#21p17
 
2004年
http://kaolu4seasons.hp.infoseek.co.jp/3rd/200402.html
http://web.archive.org/web/20070309033824/http://homepage1.nifty.com/fluorit/diary0212.html#8a
http://web.archive.org/web/20070309033824/http://homepage1.nifty.com/fluorit/diary0212.html#10a
http://d.hatena.ne.jp/ityou/20040401#p1
http://flurry.hp.infoseek.co.jp/200402.html#20_3
http://web.archive.org/web/20041022035735/http://d.hatena.ne.jp/kaien/20040214
http://web.archive.org/web/20041115042110/http://d.hatena.ne.jp/kaien/200402
http://web.archive.org/web/20040717222011/d.hatena.ne.jp/smatoba/20040215
http://kaolu4seasons.hp.infoseek.co.jp/3rd/200407.html#22
http://otd10.jbbs.livedoor.jp/1004176/bbs_plain?range=-42&base=668
http://www.geocities.jp/mercuryparty/kanon.html
2005年
http://blog.livedoor.jp/april_29/archives/16475542.html
http://d.hatena.ne.jp/tdaidouji/20050719
http://d.hatena.ne.jp/crow_henmi/200510
http://d.hatena.ne.jp/crow_henmi/200511
http://d.hatena.ne.jp/tdaidouji/200510
http://d.hatena.ne.jp/tdaidouji/200511
http://d.hatena.ne.jp/K_NATSUBA/20051031#1130788958
http://d.hatena.ne.jp/K_NATSUBA/200511
http://catfist.s115.xrea.com/wiki/wiki.cgi?page=Diary%2F2005%2D11%2D01
http://d.hatena.ne.jp/imaki/200511
 
2006年
http://d.hatena.ne.jp/sirouto2/20060422/p4
http://d.hatena.ne.jp/milkyhorse/20061022/p3#c3-6
http://d.hatena.ne.jp/milkyhorse/20061023/p2#c3
 
2007年
2008年
http://d.hatena.ne.jp/LoneStarSaloon/20081207/1228589495
 
2009年
http://d.hatena.ne.jp/crow_henmi/20090125/1232857880
http://d.hatena.ne.jp/crow_henmi/20090206
http://d.hatena.ne.jp/LoneStarSaloon/20090410/1239302357
http://nasutoko.blog83.fc2.com/blog-entry-50.html
http://www.ero-gamers.com/03/index.html
http://d.hatena.ne.jp/Tori-kuzukago/20091201/1259684565
http://kiicho.txt-nifty.com/tundoku/2009/02/post-05f0.html
 
2010年
http://www4.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=473384&log=20100507
http://www4.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=473384&log=20100508
http://d.hatena.ne.jp/nakari/20100322/1269245560
http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=5430&uid=Sky
http://surface.at-ninja.jp/file01.html
http://togetter.com/li/8693
http://d.hatena.ne.jp/Pantsel/20100513#p1
http://togetter.com/li/20020
http://togetter.com/li/20046
http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/2010-05.html
http://togetter.com/li/22139
http://togetter.com/li/23898
http://twitter.g.hatena.ne.jp/highcampus/20100604/1275665059
http://twitter.g.hatena.ne.jp/highcampus/20100621/1277141764