片山憲太郎『電波的な彼女』

 2005年の夏のことだ。たまたま小倉駅で立ち読みした『ライトノベルキャラクターズ完全ファイル』(たぶん)の堕花雨に対する作者コメントが随分とみもふたもない代物で気に入ったので買ったのが最初だった。主人公専用のカウンセラーみたいな感じ、とかそういうやつ。そういえば中村九郎は『ロクメンダイス、』あとがきで「主人公を救う、無敵のカウンセラー」について語っていた。
 読んでみるとやっぱり随分と思い切った代物で、ヒロインは、いきなりやって来て、主人公を無根拠かつ無条件(主人公の主観としては)に、守り肯定してくれるのだ。もう本当にそれだけ。ちなみに似たような生物としてはシスプリの妹、『水月』の雪さん、『坊っちゃん』の清、といった存在が挙げられます。

 世界には、私たちを傷つけ損なうためだけに傷つけ損なう、そんな「邪悪なもの」(内田樹「邪悪なものが存在する」、『期間限定の思想』)が多すぎるから、時々あなたに助けてもらわなくてはならなくなる。私たちを、でなければフィクションの主人公を、ただ守り助けるためだけに守り助ける、そんな存在に。
 邪悪なものが常態ならば、善良さは「ないもの」によって担保されなければならない。さきに触れた『坊っちゃん』についていえば、かれの正義感は清によって、つまり既に存在しない封建時代の主従関係と無根拠かつ絶対的な愛と承認、によって保証される。
 主人公に向けられる、無根拠で無条件で絶対的な肯定。つまり、それが電波。
 だが、前世にでも支援してもらわなければ、クラスメイトを殺したシリアルキラーと対峙するなんてできやしない。
 
 別の言い方をすれば、白馬の王子様。
 雨は自分のことを下僕とか奴隷とか騎士とか従者とか言うけれど、そしてジュウは主であり王だとしか言わないけれど、柔沢ジュウがお姫様であることはファンには常識だろう。たぶんトッペンカムデンあたりの女王様だったに違いない。いや、とかく厄介事に首を突っ込みたがるあたりがさ。
 
 あと、お薦めの感想文へのリンク集を置いておきます。
http://b.hatena.ne.jp/imaki/%E9%9B%BB%E6%B3%A2%E7%9A%84%E3%81%AA%E5%BD%BC%E5%A5%B3/