森瀬繚・静川龍宗『うちのメイドは不定形』

 僕たちが食事をとっている台所には、一般のご家庭ではあまり見かけない調度品、ホワイトボードがある。テケリさんがやってきた翌日にホームセンターで急遽購入したもので、二人が一緒に暮らすためのルールや、学校の僕に連絡する方法など、僕が作ったテケリさん用生活マニュアルを直接書き込んだり紙に書いて貼り付けたりする場所として活用している。

 憧れるなあ、ホワイトボード。共同生活にはルールが必要だし、いろいろルールを決めてると、なんか共同生活って感じがするよね。一緒に暮らしていくうちに新たなルールが追加されたり、なぜか冷蔵庫にメモが貼り付けられたり、そんな感じで。
 そんなわけで、人外メイドであるところのテケリさんとの共同生活にまつわる平々凡々たるトラブルを解決しつつ日々を過ごす、ただほんとうにそれだけの作品。小さな事件は起きるけれど収まるところには収まる、という点においてより一層そのようである、といった。歪みねえです。
 そして、家族と離れて久しく、いくらか心にわだかまりを抱えた少年は、誰かと共に生きてゆくことを学ぶのでした。なんて正しい物語。
 相手が一人称「私たち」であるところの超古代の不定形生物であるあたりも「異質な他者との共生」という今日的テーマがごめん嘘。テケリさんになら同化され食われてもいい。むしろ食われたい。そして、てきぱきテケリさんに叱咤される兵隊型テケリさんの一体に転生して新たな人生を……。いや、あれ楽しそうなので混ざりたいんですが割と。がんほー、がんほー、しごっとがっすっきー。あい、あい、まーむ! 疲れてるのかな俺。
 なんにせよ、この正調ホームコメディっぷりが和む和む。ラノベとはかくも読んでいて心安らぐものであったのか。抑え気味の文体も児童文学めいた趣き(たまに入る注釈が好き)があってよい。角川つばさ文庫に入らないかしら。