杉井光『火目の巫女』

 淡々とした筆致で語られる純和風異世界ファンタジー。オビの橋本紡の評言に「電撃らしくない」とあるが確かにそうで、思い出したのは荻原規子勾玉三部作と、それから後宮小説あたり。

 久々に和風ファンタジーの雰囲気に耽溺することができた。ひとつには登場人物の内面や心情の描写がかなり抑制が効いていて、現代人の饒舌な内面とはちゃんと異質に見えるせいだろう。台詞もモノローグもとにかくシンプル。具体的なことしか言わない。あるいは行動で示す。叙事的っつうか。
 まあ平安程度の時代ともなれば、都の貴族あたりはそれなりに複雑でもあろうけれど、主人公が山育ちの田舎者であるので、いやが上にもそうなる。だから、彼女がたまに、ちょっとだけ複雑な悩みを言語化してみせると、かなり効く。
 「心理描写が足りない」なんて言われているみたいだけれど、むしろこれで正解かと。充分に描けていると思います。読者が間接的な描写に馴れている必要はあるかもしれないけれど。そもそも読者をキャラクターの水準で感情的に巻き込む必要は別にないよね。

 あるいは、いよいよという時にならなければ、あるいはいっそ行動した後でなければ自分の気持ちなどわからぬもの、というのはそれなりに普遍的であろうとも思われるのですが、このあたり識者の意見を伺いたいところ。

 そういえば昔こんなことを書いていた。

 あと、伊月と豊日はさっさとなるようになっちまえよ。相手が泣いている子供みたいに見えちゃうんならさ。