小河正岳『お留守バンシー』

 力の抜けるタイトルがもう、大好き。
 とりあえず、それだけは声を大にして言いたい。いや、なんか一部で評判悪いみたいなので。

 本篇もタイトルに相応しく、イイ感じに力が抜けています。そのくせ油断するとホロリとさせやがるぜこんちくしょう、というニクい出来。
 思うに、世の不幸と悲惨は、救済と平穏によって贖われるのみならず、その上に笑いが付け足されてこそ十全というものです、とイマキは寝言をいいます。深刻さは敵と心得よ。

 バンシーとはつまり家を守るものらしく、だからアリアには屋敷の中を美しく整えることが無上の喜びである以前にもう天性であって、料理や洗濯に没頭しているとうっかりただそれだけで何もかも忘れて幸せになってしまう。だから、例えばせっかく干してた洗濯物が雨で台無しになって一からやり直さなきゃならなくなったとき、最初は暗澹としてるんだけど洗濯しているうちに幸せになってしまう、とかそういうのがツボすぎて死ぬ。そういうアリアにとって、屋敷の中を美しく整える、ということがのっぴきならず重要である、というのは嫌でもわかろうというもので、たとえば屋敷の調度がひとつ壊れることがどれほど悲しいか、なんてリアルに想像していたもんだから、なんだ、その。もらい泣きしてしまいましたとさ。

 泣く子と地頭には勝てぬ、と申しまして。
 もちろん本当は、泣く子に誰も勝てない、なんてことはありえなくて、だから、泣く子には本当に誰も勝てない、という話が存在するのはちょっとした救いです。僕の魂の。