ヤマグチノボル『ゼロの使い魔』1〜5

 不屈の魂を持つ少年少女が魅かれあう話。健全だなあ。
 つまり、少年からトーチにレベルダウンしたり、フレイムヘイズから少女にクラスチェンジしなきゃならない連中に比べれば、サイトとルイズはあまりにも自明に男の子であり女の子であるわけで。シャナと悠二とは根本的に異質なのでアニメ版のキャスティングが一緒ってのは差異を楽しむべきところだと思う。まだしもアリサ・バニングスって言われた方が納得できる。

 てのはともかく、普通に火星シリーズ。男の子は異世界と女と戦争が大好きです、的な。ああでも女の子も異世界に行っては男とひっついたり戦争したりするよなあ。少年少女は異世界と異性と戦争が大好きですか。
 ただ、少年が異世界で戦争と出会うにあたって、いちいちベトナム戦争(たぶん)や大東亜戦争の記憶を参照させるアイテムが出て来るあたりが妙に律儀というかなんというか。むしろ、主人公たちの年齢層とエロ度を下げれば岩波少年文庫に入れられそうじゃね? 健全だし。

 あと作者はアレクサンドル・デュマというか『三銃士』が好きすぎると思った。一巻のギーシュとの決闘に至るくだりなんて、まんまアラミスとダルタニャンのそれであるし、二巻において王女様の密命を帯びてイギリスじゃなくてアルビオンに渡る、というあたりはもうそのまんま。
 あの王子様がバッキンガム公で、フーケがミレディーでワルドがロシュフォールで、枢機卿はもちろんリシュリューなので実は真面目に国を憂えるいい人に違いない、って最初からそうですか。
 あと、タバサ=アトス、ポルトス=キュルケー、アラミス=ギーシュで三銃士、というネタは誰かやってますか既に。

 ラ・ヴァリエールの妬き方がどうも響子さんみたいで困る。

 ところで、キュルケの思い出話にタバサ視点が混じるのはどうにかしてほしい。5巻p160のラスト四行は不要。あとp161三行目二文目からも「どことなく嬉しそうな響きが混じる。まるで誰かに借りができたことに喜んでいるようだった」ぐらいにしとけ。読者は自分で想像した心情に萌えるので、作者に直接解説されると冷めるってことです。そもそもが、タバサについてキュルケも知らないことを、僕らが知っていていいはずがないではないか。それは冒涜だよ?

 サイトとルイズの心情描写についても似たような不満は多いのだが、いちいち述べない。
 あと、それなりの身分の方々の絡むトークを繰り広げるだけの筆力が絶望的に不足しているので、そのへん読んでて気持ち悪いことこの上ないのだが、ラノベに期待しちゃいけない部分ではある。でも支倉凍砂が「小説のセリフに顔文字が使えないのがもどかしくてしょうがない」と語っていたときには、さすがに死にたくなりました。『狼と香辛料』二巻あとがきですが。いや他の作品ならまだしも、西洋中世を舞台にした小説書いててそんな。