『魔法少女リリカルなのは』#7〜#9

 相変わらずなのははずっとフェイトのことを考えている。挙句にえらく早朝に眼が覚めてしまって、仕方ないので道場に行ってお姉ちゃんの修行を見学したりする。そういう時にお姉ちゃんが出て来るのがよろしい。もちろん、ただ道場に同じ場所にいるだけで何があるってんでもないんだけど、物理的に同じ場所にいることはとても大事なのだと保阪和志か石川忠司も言っていた。要するに当を得た作劇ってやつ。フェイトのことが気になって仕方がないなのはの前に、アリサちゃんやお姉ちゃんがちゃんと現れるようになっているのが優しい。

 「それでね、ユーノくん。わたし、考えたんだけど」「うん?」「わたし、やっぱりあの子のこと、フェイトちゃんのことが、気になるの」「『気になる』?」「すごく強くて、冷たい感じもするのに、だけど、きれいで優しい眼をしてて、なのに、なんだかすごく、悲しそうなの」「……」「きっと理由があると思うんだ。ジュエルシードを集めてる理由」。
 例えば『こどものおもちゃ』で紗南ちゃんが羽山くんのことを気にするのは、羽山くんの事情を聞いてしまったからで、そのへんの理路は怪しむに足りない。でもなのはさんはフェイトちゃんの事情なんて何も知らない。だから、ずっと考えているのは、つまりわからないからである。あの子についちゃあ情報量が圧倒的に足りないし、自分の気持ちもわからないから。

 そのせいか、このあたりのなのはさんの表情は随分とややこしい。いや表情についてはOPからしてそうで、フェイトと対峙するなのはのややこしい顔ったらない。僕にはリリカルなのはとはつまり、なのはさんが複雑な顔してずっと考え続けているような、ほぼそんなアニメです。

 「ああ、そうだ、やっとわかった。私はこの子と、友達になりたいんだ」。ありえない。なのはさんはその時はもう十日ばかし家族ともクラスメイトとも会わずに暮らしていて、それで煮詰まっちゃったのか、足りない情報を思い入れで埋めてるうちに思い余ってしまったのか、ぼくらは彼女たちのことをどちらもよく知っているから、友達になれないほうが不思議だと思うけれど、フェイトの立場で考えてみればこれは唐突にもほどがある。あの子もきっとひとりぼっちだと思うから、というのはなのはの勝手な言い草といってよく、しかし恋はいつも唐突だ。そして唐突なのは恋ばかりとは限らぬ。これはそんな「小さな出会いと、触れ合いのものがたり」で、どうしてなのはさんはそんなにフェイトちゃんが好きかね、まあそういうもんだろうけど、という以上に別に言うことはない。言われたフェイトにしてみれば何がなんだかわからないにちげえねえ(#6でいきなり自己紹介された時と同じく)、などと考えるのはなかなかに(略