『AIR』TV版 #4(その3)

 「おまえは笑ってろ」のシーンについて補足しておくと、往人が自分の物思いを告げずにちょっと見当外れなこと言っちゃうわけで、観鈴にはとうぜん往人の気持ちなんて理解できるはずもない、というのが原作の同シーンのキモです。たぶん。
 過剰な物思いがほとんど言葉に反映されないならば、通じるはずもない言葉に応えて観鈴が笑う、というのは、どうかするとありえない奇蹟じみて見える。また、かれらが何も言わないし訊かないのはむろん寂しい。なんかそういう感じが欲しい。そういう往人と観鈴の関係性だか空気だかを表現し損ねている気はします。
 表現形態からいえば、原作では、該当シーン前後の過剰なまでのモノローグに対し、実際の発語とリアクションは極めて僅少といってよい。内面と発語の量的差異ないし齟齬を表現しやすいといえる。とりあえず、実際の発語だけを追いかけてアニメ化すると、えらく印象が変わるものだな、とは思う。

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 原作の上記のシーンはおそらく、更科修一郎に言うところの《麻枝さんのシナリオは、キャラクターが同一化を希求しないというか、コミュニケーションがあらかじめ切断されていて、その切断面が剥き出しになっているところが、内向的なユーザーの気分にハマるみたいですね。》という部分のひとつだろう。なお、観鈴ちんの「ぶいっ」の後に、「笑ってくれた。」という一文がわざわざ入っているのがなんともいえずよい。