ルルーシュのこと

 極めて個人的かつイタいことを述べれば、彼より先に死ねない、ということをどうにか支えにして生きていた時期がありました。人生はいつだって死にたい気分で満載だから、たとえば『神様のメモ帳』のアリスにはドクターペッパーが必要だ。ドクペを切らしたときのアリスの気持ちを僕は想像することができる。これは是非ためしてもらいたいのだが、死にたい気分のときにドクペルートビアでも可)を飲んでみるといい。効くから。
 
 かれの死については、未だ整理がついていない。たぶん整理したくないのだろう。結論など出したくないし終わったことにしたくもない。そもそも死は人生の結論などではないし、べつに特権的な瞬間でもない*1
 いつものように勝手で、ドシっ子で、涙が出るほどいいやつだったと思う。お兄様はずるいです。愛しています。他に言うべきことはない。より先へ。より高みへ。そんな当り前のことは言う必要がないから。ナナリーはさすがに間違えない。
http://www2.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=86431&log=20080928

「悪逆非道の兄のまま死ぬつもりだったのに
 最後の最後で真意を悟られちゃった

 ルルーシュ、最後のうっかりである
 合掌」

 だから、とりとめのないことをそのままに書く。
 この世すべての悪、であることを自ら選びとったこと、それに満足して死んだこと。人を殺めたまま生き永らえるには優しすぎたのかもしれないし、自身の行為の結果(意図ではなく)にあまりに律儀だったのかもしれない。僕が思い起こすのは第一期第一話のラストシーンで、ブリタニア兵に死を命じたあと、ほんとうにかれらが死んでしまったことに茫然とし、ほとんど怯えるようにして、そのあとで決意の笑みを浮かべる。
http://imaki.hp.infoseek.co.jp/200405.html#21a

 ……あまりにフロイト的な罪悪感。死んでしまえと願った相手がたまたま死んでしまったときにひとは罪の意識を感じる。まるで自分が殺したような気がする。」もちろん大抵は「厳密には、相手が死んでしまったから、そのように念じた(ことがあった)ような気がしてくるだけ」なのだけれど。

 その笑みはすでにかれの仮面である。かれの「素顔」なぞ、人を殺してしまったことに怯え、あるいは親しい者の危機にたやすく脅える、ただの少年でしかないだろう。そしてまずルルーシュが反逆するとしたら、そんな自分の素顔にこそほかなるまい。
 そうだろうか。かれの言葉はいつわりに満ちている、つまり、本心ではない、という意味では。しかしかれは自分のついた嘘に結局は責任をとり続けてはいないか。つまり、嘘にならないし現に嘘ではない。『土の味』でのスザクの詰問に対する回答がいい。それは学生ルルーシュランペルージにとっては嘘で、ゼロ/ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアにとっては真実だ。そしてルルーシュの「本心」はむしろ学生としてのそれに近いようにみえる。一緒に花火を。
 だが、かれの本心とは素顔とは何だろうか。年相応の少年らしい顔が素顔だとしたら、それは学生ルルーシュランペルージという仮面によって可能になったのではないか。そうでなければ復讐者としての怨念にかれの心は塗り潰されてはいなかったか。

 ロロのこと。ナナリーはルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの妹であり、ロロはルルーシュランペルージの弟だという。きっと聡明なロロはルルーシュが「本心では」自分を憎んでいたことを知っている。けれど、最期に嘘をついてくれるほどに優しければ、満足して死ねると思う。兄さんは嘘つきだから。いったい「本心」なんて、なんの意味があるだろう。

 現実は常に思いもよらぬことばかり起きる。望んだ通りのことが起こったとしてさえも。みんな死んでしまえとは思った。ほんとうに死んでしまうとは思わなかった。だから。

 かれには死は解放でもあれば安息でもあるだろう。どうにも生き急いだ感は否めないが僕は生き急いでいる奴に死ぬほど弱いので泣く。僕はあの最初の「契約」がなければルルーシュが行動を起こさないまま終わったことを疑わないけれど、世界と人々に明日を。魔王には安息を。

「元々計画を告げていた腹心だけでなくて、ルルーシュという人間を知る人間にはその想いはきちんと伝わっているという何という有難さ。お兄様愛してますなんていわれたら、それだけで満足であろうよ。普段あれだけ人の話を聞かない登場人物たちだというのに。」

 ハムレットは己の真実が伝わることを信じて死んだ。ルルーシュはそんなことは期待していなかった。だから最期まで現実に出し抜かれ続けたことになるわけで、つまりそういう奴だった。このドジっ子め。
  
 せっかく学生服のまま玉座についたんだから、学園篇をもう一回ぐらいやってくれれば言うことなかった。
 学園と戦争が無節操かつ悪趣味に入り混じるあたりが好きだった。世界は、真剣にやれば真剣に応えてくれるほど甘くはないのです。テロリストだけど優等生を通さなきゃなんない、なんてのは実にいい。
 ギャグとシリアスの配分、という要請はさておき、ルルーシュはどうやってもルルーシュで、学園祭であたふたするルルーシュにはギャグのためにキャラを崩したような印象はなく、仮面の下で冷や汗を流すかれと同じルルーシュに思えた。