シスター・プリンセス#9

 夏なので再視聴。アニプリ#9・#10を私はたぶん偏愛しているといってよい。もっとも、http://d.hatena.ne.jp/imaki/20040929#p1であらかた書くべきことは書いちまったのであるが。
 
 潮騒と風鈴の音。強い陽射しと濃い影。あるいは夕映え。影が長い。ときに透過光とシルエットだけで妹の姿を描くほどに極端な、光と影のコントラスト。プールサイドのシーンに臆面もなく割り込んでくる潮騒の音。ここは島なのだ。
 たとえば泳げないこと、と碇シンジは言った。少年はそんなことにも生き難さを見出してしまう生き物だ。そんなわけで、この夏はまずメランコリーから始まる。「今日もこの島に、強い陽射しが降りそそいでいる。そして、この家のあちこちから、妹たちの明るい声が聞えてきている。季節が鮮やかになって、皆の声がどんどん明るく響くようになればなるほど、僕はあの、憂鬱なことを思い出さなければならなくなる」。「憂鬱なこと」とはむろん泳げないことだ。妹たちに別に秘密にしてはいないが、かといって言い出せることでもない。
 で、聡明な鞠絵さんは航が泳げないことを察していて、だから何も言わずにプールサイドに並んで腰掛けてくれる。涙が出るほどよい娘さんである。見習いたい。
 久しぶりに観たらなんだか鞠絵っちが愛しくて仕方なかったですよ。花の香りを確かめているところとかさあ! あとリピュアでも兄上様のコートの匂い嗅いでた。
 それはともかく。
 しかし衛ちゃんはアホちんなので、そのような察しや思いやりとは無縁である。「水を見てると泳ぎたくなるねー」とか、その程度しか考えていない。夏が来たというだけでこの子はむやみと楽しそうで、したがってカナヅチの憂鬱には想到だにしない。自分が楽しいばっかりだ。僕はそういう衛ちゃんが心配でたまらない上に死ぬほど好きなのですが、それはまた別の話です。うわこの子何も見えてない(byひらしょーさん)感というのがこう、ねえ。
 なので衛さんは無思慮無神経にも航を「一緒に泳ごう」と誘ってしまうわけですが、この場合はそれで正解なのである。べつに鞠絵の察しを思いやりがハズレってんでもないけれど、こういう察しの悪さが必ずしも悪いことではない、というのは好きな展開ですよ。

 ところで、なのは無印のOPあたりで自覚したのですが、今木はどうも女の子がややこしい顔してんの見てると萌えるようです。そんなわけで、兄がカナヅチだったと知ったときの衛の顔はなんかすんげえお気に入りでした。
 ややこしい顔ってのはつまり、えらくかさばった思いに意識は行っていて、だから当人も自分がどういう顔してんのかは気にする余裕なんてない、ちょっと無防備な感じの? まあそういうあれです。
 このときの衛はたぶん、兄がカナヅチだとも知らずに「いっしょに水着を買いに行こう」と誘ってしまったことを思い出してしまっているのかもしれない。そういえばあにぃはずっと水に触れようとしなかった、と今更にながら合点しているのかもしれない。兄の気持ちなど考えず、自分が楽しいばっかりで無邪気にはしゃいでしまったことを後悔しているのかもしれない。もしかして傷付けてしまっていたのだろうか。嫌われた? いやそれはない、現にこうやって兄は泳げないことを打ち明けてくれている。でもそれに気付かなかったのはどうよ。そういえば鞠絵ちゃんたちは気付いていたのだろうか。
 もっとも単に、「泳げるようになりたいんだ」という告白から、つまりそれは兄が泳げないことを意味するのか、と思い至るまでにけっこうな時間がかかった、というあたりですが。

 そんなことよりも、夕暮れのプールサイドに伸びる二つの長い影やら、いかにもな間を取りにくる風鈴の音やら、そういうのが心地良くて仕方ないわけで。こうなると山田さんは単なる照れ隠しとしか機能しない。