『智代アフター 〜It's a Wonderful Life〜』

 終わり。というかこの三日はおまけRPG三昧でしたが。シンプルな資源管理の楽しさと、とにかくアイテム名やらキャラの台詞やらが間断なく快楽を与えてきて病み付き。
 それはさておき、本篇について。ネタバレです。



「やっとみつけたよ」
「何を?」
「永遠を」
「それは太陽と溶け合う海だ」

 というのは『気狂いピエロ』にも出て来るランボーの詩(だか書き付けだか)で、訳はとりあえずここから拾ってきた。
 どこまでも続く海を見たことがある──で始まるのは『ONE』の永遠の世界であるが、やはり永遠と海は相性がいいらしい。


 正直、見通しの良くなるよう整理されてしまった、理詰めの『ONE』という感がしなくもない。あと、現世的な設定の範囲でやっちゃったから、今までのが『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』だったとすれば今回のは『NHKにようこそ!』だなあというか。僕は前者の方が好みなのでなんとも困るところです。
 また、二種類の語りが錯綜したり、終盤にイメージの奔流がだーっと来たり、あるいは異様な切迫感とか、なんかそういういつものあれが今回は稀薄である。瞬発力でいうとおまけRPGのラストとかのがあった。
 もっともこれは、すべてが「遠い昔話」として語られるのであってみれば、まあないものねだりといってよい。むしろ、タイプされた文字が白い画面に出て来る演出をもうちょっと印象的に仕上げる必要があったとか、そんな感じ。
 本音を言えば、序盤からアフターアフターの語りを混入させ(ただし本篇との時間軸がバレないように)錯綜した語りやミスリーディングやらをバラ撒いて最後に収束、というのが好みになる。つまりアフターアフターをだいたい『ONE』の「永遠の世界」や『CLANNAD』の幻想世界みたいに全篇にバラ撒いて最後にタネ明かし。あと「森のくまさん」のタイプを『Kanon』のあゆの夢のモノローグっぽく印象付ける。しかしこれだと過去の作品の焼き直しの感が強くなるのでやはりやめた方がいい。どっちだ。
 それはさておき。


 とりあえず言われなければならないのは、この作品がまずアフターアフターありき、であることだ。少なくとも『ONE』がまず「もうひとつの世界」ありき、である程度には。
 そこにおいて私の記憶は失われており、時間は停滞している。変化=その世界の終りをもたらすには決断が要るが、そう決意する根拠を私は直接に知ることができない。それが『ONE』の「永遠の世界」や『CLANNAD』の「幻想世界」といった代物であった。
 ところで時間の停滞と直接には知られぬ過去、については、『Kanon』の舞シナリオでの、十年かわらず幼いままである「まい」の世界(それは祐一を通じて舞に語り聞かされるのみで、舞にとっては「祐一の話はよくわからない」)やら、『AIR』の千年かわらず風を受けつづける空にいる少女の世界やら(観鈴は断片的になんか夢見るだけでそれが何なのかは判らないし、判らないまま夢を見続けることを決意しなにごとかを終らせるのであるが)、についても言えることで、これらに佐藤心は「内閉世界」*1との総称を与えている。
 で、アフターアフターでの「三年」は恐らくその「内閉世界」に相当するファクターとして、舞/まいの十年や空にいる少女と観鈴の千年であるはずなのだ。『CLANNAD』については、あの幻想世界とは、時間軸上はともかく因果系列でいえば、アフターストーリーのさらに後に位置する、といった点も指摘しておこう。そこでは視点キャラの記憶は失われており(略)。
 そして従来ならば内閉世界と現実は二種類の世界でもあれば相互に影響しあうような回路もあったのだが、今回はそれが同じ世界の同一時間軸上に並んだ結果、不可逆的な因果が形成され、起こってしまった悲劇は受け容れさらに肯定されることになる。ニーチェ。楽器の名前だ*2。そして永遠はもはや彼岸や異界の属性ではない。

 まあこのあたり(「内閉世界」の論理が現実の因果に直接には力を及ぼさない、とかそのへん)は、『MOON.』と、あと真琴シナリオに近い系統といえばそれまでなのですが。ただ朋也の立場はむしろ『MOON.』の少年や真琴に近い位置にある。
 しかしそれよりも僕には、『ONE』でなんとなく「日常」に対置され否定的に扱われたまま終ってしまった(僕はそうは思わないけど)がごとき憾みがある「永遠」が、改めて掬い出されたのが嬉しかった。クライマックスに「恋心」挿入するぐらいやってもよかった気がする。

 あとはまあ、幻想世界でガラクタ組み立てるかわりに現実の仕事としてそれやってる、みたいな部分も面白いんだけどそれはまた別の話。それとウィトゲンシュタインの遺言を連想したのは当たりだったみたい、とか。当て物じゃないけどさ。それと便座カバー。

*1:「オートマティズムが機能する2」、『新現実vol.2』『美少女ゲームの臨界点』。なお、書かれた当時はCLANNADは未発売のため幻想世界への言及はない。

*2:アニメ版『LOVELESS』ネタ。唯子かわいい。