PEACH-PIT『Rozen Maiden』3巻(幻冬社)

 真紅が子供みたく膝を抱えて坐ったり、頬杖ついてベッドにうつぶせになったりするのがえらく可愛い。ありえない。あまつさえ、裁縫してるジュン君の指先をうっとりと見つめたりする。もちろん、あんなドレスを着ていてはこんなことはできないので(雛苺ならともかく)、どちらのシーンでも別の服を着ている。

 というわけで今日はソガさんのこれとかこれの請け売りみたいな、または、むしろ正反対の話。

 知っての通り真紅さんは子供型の人形で、いつも盛装した貴婦人みたいに専用にあつらえたドレスを着ている。でもPhase13、借り物のだぶだぶのセーターを着てジュンの部屋に来た真紅は、まるで子供が甘えにきたように見える。ちょうど洗濯のためにドレスを脱がなきゃならなくて、だぶだぶの服を着た自分はまるで子供みたいに見えるから、そんな風に振舞ってみたくなったのかもしれない。いつもはずけずけ物を言うくせに、なんだか物言いたげにじっと見つめてるだけとか。

 部屋に着た口実は釦を繕ってもらうことで(ジュン君は裁縫が得意なのである)、いつもは姑みたいに口うるさい彼女は、ベッドに腹ばいになって頬杖ついてる。それでうっとりとジュンの指先に見入っているのだけれど、つぶやく言葉も夢見がちな子供と区別がつかない。その指はきっと魔法の指だわ、なんて、魔術の申し子みたいな呪い人形の台詞ではありません。
 着ているのはセーター一枚きりだから、かわいらしいおみあしも球体関節も丸見えで、話も自然とそういう風に行きます。ゼンマイが切れるとここから動かなくなってしまうの、それからとても眠くなるのよ、から始まって柄にもなく自分語りをしてしまうのは、やっぱり服につられたのか、それともそういう話がしたかった時に運良くいつもと違う服になれたのか、なんてわからない。

 Phase17。真紅は部屋に閉じこもって、破れたドレスはジュン君の魔法の指が直してくれてるんだけど、ドレスなんかいらない、自分は欠けてしまったから、と膝を抱えて泣いてしまう。そんな時にはやっぱりだぶだぶのYシャツみたいなのを着ていてさ。
 しばらくして会ってみると、きちんと例のドレスを着込んでいて、すっかりいつもの小憎らしい態度を取り戻している。気を取り直したからドレスを身につけたのか、ジュンが直してくれたドレスを着たから立ち直ったのかというのはやっぱりどちらともつかない気がする。ただ、満ち足りた顔をしているのは、ジュンが繕ってくれたドレスに袖を通しているせいなのは確かだろう。かくて、想われているのね、とか、気付こうとしなければきっとわからないわ、といったPhase1の台詞は、いまや彼女自身のためにある。