清水マリコ『ネペンテス』

 読了。天沢退二郎っつったけど、徒党を組んでバトルだの宝捜しだのをしないわけで、『ゼロヨンイチロク』が『光車』に似てるとか、そういうのとはちょっと違う。まあ天沢退二郎にも児童文学にも色々あるわけで。ともあれ、作家があとがきで自註するような深夜ドラマよりは、やはり児童文学くさいリアリティに見えるのは、「嘘の世界」みたいなのが、例えばプチ不条理系ホラーの不条理さでなく、一種の世界観めいて見えるせいだろうか。世界観というのは「設定」とかそういうのじゃなくて、そもそもの語義通りの。

 『Kanon』か『ONE〜輝く季節へ〜』が世界観レベルで好きな人にはおすすめかも。世界には穴があいていて当然と言わんばかりだとか、女の子が意地悪だったり不可解だったりするけど可愛いとか、結局は個人の内面に収斂しそうなあたりとか。あとは、この現実には、なんか嘘だかおはなしだか御伽噺だかみたいなのが重なり合っていて、ふとした拍子にそっちに足を踏み入れてしまいそうな(あるいは普通に片足を突っ込んでいる)感じとか。『ONE』や『Kanon』で言うと、ばかげた子供の口約束やその場限りのはずの嘘や、そんなものがリアルになってしまう、あの感じだ。本来ならばなんでもないはずの出来事が物語の起点になってしまう、あの感じ。そういえば清水マリコは『Kanon』のノベライズを書いていたのだけれど、なるほど相性がいいかもしれない。