リピュア#8-a

 あにうえさま、と聞くたびに思い出すのは「ははうえさま、おげんきですか」という手紙で、むろんアニメ『一休さん』のエンディングである。したがって鞠絵の「兄上様」という呼び方は、僕には嫌でも、手紙を通して呼びかけるしかないような遠い相手を連想させる。たとえ相手が目の前にいたとしても。
 あにうえさま、おげんきですか。鞠絵はここでちゃんとやってます。だから兄が療養所を案内されるのは、そんな手紙の内容を確かめるような行為だ。
 鞠絵はたぶん強い子なんだけど、そんな風に評するのはうしろめたい気がするのはなぜなのでしょうね。なんというか、病を養う日々の中で彼女が獲得した種々の美質に思いを馳せるとき、そんな自分がいやになるのでね。どうでもよい。つまり、苦手なんだこういうの。たとえば、今回の来客の数だけティーカップを新たに買う、とかさ。これが12人の妹プラス兄の分ってんならわかるんだけど、ただ今回来ることになった人数の分だけ買っておく、というのが、鞠絵にとってのこうした機会の貴重さをどうしても意識させてしまう。客の数なんて毎回違うのに。

 ところで冒頭、予想よりはるかに早い兄の来訪が実感できず、なんと鞠絵は預かった兄のコートに頬を埋め、匂いを嗅ぐのである。うわ。