It/ストラグル

 巡回先ではあまりいい評判を聞かなかったので、しばらく手を出そうかどうしようか迷っていたのだが、読んでみれば前巻よりも面白い。ある意味では当り前の話で、前巻の描写の大半が、いずれ引っくり返すことを前提に描かれているため、どうしてもうすっぺらな印象に支配されがち(もちろん、そうなるのは恐らく作家の目論見通りであり欠点ではない)だったのに比べて、素直に読めるからだ。

 ストラグル。
 維持すること。踏み止まること。勝利するのではなく、負けないこと。それが一番大事、ってか?
 前巻において三鷹昇は敗北した。それというのも、中途半端な状態に耐え切れずに短期決戦を夢見てしまったからだ。現状に耐えられず希望的観測に頼って行動したからだ。だから今回は、中途半端な状態のまま踏み止まる話なのである。今巻もやはり堂島コウは登場せず決着も付かないが、それは物語上の要請を的確に満たした結果といえよう。人間たちにもせめてこの程度はやってもらわねば収まりが付かぬし、でなければやがて訪れるザ・ワンの敗北を説得的に描くことも望めまい。

 むしろ、ここまでやられてしまうと、いっそ堂島コウ抜きで決着つけてほしくなるわけですが。