『天元突破グレンラガン劇場版 紅蓮篇』

「怖いのなら逃げればいいのです。死んではいけません」
「こ、怖く、なんか……」
「嘘もいけません」
「……」
「逃げましょう、一緒に」

 そんなふうに僕の手をとってくれる子がいたらそれだけで生きられると思う。あるいは死ねると思う。
 ちなみに劇場版だと「嘘もいけません」のあたりで明瞭にトーンが下がる。ので、一見アホの子に見えるけれど実は大物というかまあニアはもとより物を知らないだけでとても聡い子なのだがそれはともかく、また「けれど実は」と逆接を用いるのは間違っておりむしろ天然にして大物(つまりそれはカミナと同じだ)、と並列的に言わねばならぬのだが、ともあれ何というか「勝てない」感じが出ていてよい。ひとつには彼女はその身分に相応しく命令することに馴れており相手が従わぬ可能性など考えもしない、それ以前に「自分の言葉が聞き入れられなかったらどうしよう」なんて邪念がない、そう、彼女は常にマジなのだ。一緒に逃げましょう、という時だってきっちり腹が据わっている。自分を見失っているときにそんなヤツに出会ってしまえば、もうおしまいだ。
 彼女はいつも「シモンが自分を救ってくれた」と言うけれど、このときシモンの命を救っているのはどうやったって彼女のほうなのであり、しかしそんなことには微塵も思い至らないあたり涙が出るほどいいやつである。結婚してください。
 文字通り谷底に落ちたシモンがニアと出会うシーンはとても好きです。なぜかコアドリルが鍵となるあたり。RPGか児童文学あたりでありそうな感じ。
 
 さて福井裕佳梨の一声以外に語るべき点はといえば、シモンの叫びに応えるラガンがすんごく男前に見えました。この作品にしては珍しくロボに存在感がある。珍しく、というのはむろん悪口ですが。