ちなみに、『とらドラ!』を読んでいたとき、虎、からの連想で『山月記』のことをしきりと思い出したりしていた。何、逢坂大河が虎であるとはどういうことか、ずっと考え続けていて、それで何かの足しにならないかと思ったまでだ。獰猛なる手乗りタイガーに食い殺されるだの何だのと、竜児くんが随分と真に受けていたせいもある。然し「なんで、誰も、わかってくれないんじゃー!」という絶叫はあの虎の咆哮に似てはいないか。彼女の傷つき易い膝小僧を誰も理解しなかったのではないか*1。あと自嘲とか。そんな程度である。

*1:《まして、己の頭は日毎に虎に近づいて行く。どうすればいいのだ。己の空費された過去は? 己は堪らなくなる。さういふ時、己は、向ふの山の頂の巌に上り、空谷に向って吼える。この胸を灼く悲しみを誰かに訴へたいのだ。己は昨夕も、彼処で月に向って咆えた。誰かに此の苦しみが分って貰へないかと。しかし、獣どもは己の声を聞いて、唯、懼れ、ひれ伏すばかり。山も樹も月も露も、一匹の虎が怒り狂って、哮ってとゐるしか考へない。天に躍り地に伏して嘆いても、誰一人己の気持ちを分って呉れる者はない。恰度、人間だった頃、己の傷つき易い内心を誰も理解して呉れなかったやうに。己の毛皮の濡れたのは、夜露のためばかりではない。》