『涼宮ハルヒの憂鬱』#3・#4

#3(第二話)「涼宮ハルヒの憂鬱 II」

 ええと、キョンが部室に入り浸っているのは長門さんに気があるから、ということでよろしいでしょうか。わりとそう見えるよね今回の話だけ観ると。
(追記。つまり、アニメ版を観ていると、そもそもなぜキョンがそこにいるのか、という疑問を絶えず感じてしまう。これはむろん、なぜ彼は文芸部室にいつも来てしまうのか、長門さんに気があんのか、という物語次元の話でもあるが、むしろ、なぜそのシーンの描写にキョンが登場しなければならないのか、といいうことを。
 さて、ハルヒがコンピ研からPCを脅し取るシーンを描きたい場合、犯行現場にキョンが居合わせる理由は原作では二つある。一、共犯者だから犯行現場にいる、それだけ。なんだかんだ言いつつもキョンハルヒに積極的に手を貸している、というのは今更指摘の必要はあるまい。二、キョンの一人称による語りなので、そもそもキョンが居合わせないことには事件が描けない。だが、アニメ版は後者の事情からは自由だし、前者については、キョンは共犯の役を務めないように改変されている。ために上記の疑問が噴出するを避けがたい。というか、目の前の犯行を他人事のようにボヤきつつ眺めてるだけ、というのはいかにも変だ。)

 微妙に山本寛くさいコンテですが別の人でした。いや長門の部屋に入って以降とか。あと、語りの時系列のいじり方や映像と音声のデュアルタスクっぷりが『AIR』#2を思い出させた、とまあそれだけの話なんですが。バニー姿のみくるちゃんが部室の椅子に座り込もうとしてる絵(と平然と読書中の長門さん)を見せつつ画面外でのハルヒキョンの会話を聞かせるとか、そのへん気に入ってます。
 それはそうと。
 周知の通り、原作のキョン信用できない一人称の語り手です。こういう存在が恋愛的な事情に陥るとどうなるか、という点は説明が面倒なので酒見賢一『語り手の事情』をお読み下さいで済ませておきますが、要するに彼ないし彼女のモノローグは本音だか韜晦だかわからない、下手をすると語り手自身にも、ということになる。読者としては判断基準はむしろ彼ないし彼女の周囲の人間による評言に置きたい。「語り手さん、顔真っ赤よ」。まあそれはともかく、モノローグだけ見れば不分明であるにはちがいない。
 しかしこれをアニメに移すと、演出や声優の口調如何により、かなり明確に本音か韜晦かは切り分けられてしまう。例えば原作だと、せめて朝比奈みくる長門有希に害が及ばないように、なんてのは、ただキョンハルヒ(たち)と一緒にいたい、或は何かしたいがゆえの韜晦、としか思えない部分があるのだが、アニメだと普通に本音に聞こえてしまう。
 で#3(第二話)につきましては、キョンのボヤキにハルヒへの愛が足りない。というか、原作のキョンハルヒにのっけからディープに思い入れてしまっている(けど素直に認めようとしない)のと異なり、アニメは時間を追って徐々に、という感じなんでしょうか。
 おかげで原作ではキョンの(行動に照らして)韜晦と思える語りが、アニメでは普通に本音として扱われているわけです。そして逆に、キョンの行動の方が修正される。コンピ研PC強奪事件において、原作では「共犯」のポジションにいたキョンが「無力な傍観者」にまで後退しているのはその一例。原作では「傍観者みたいな覚めたこと言ってるけどお前しっかりハルヒに手を貸してるやん」と突っ込む余地があるわけですが、アニメだと本当に傍観し看過するのみですね。
 ところでこのあたり、アニメ版の方が自然、という意見を数か所で見かけたような気がするのですが、キョンはあれこれ言うくせにハルヒには積極的に協力するし、ハルヒキョンが反対するなんて夢にも思わず見境なしに協力を持ちかける、というのがずっとあるので、原作でキョン不本意だの何だのと言いつつシャッターを切る役を努めてしまうのはとくに問題とするにあたらない。アニメ版を逆に不自然と断ずることもしませんが。
 ついでにいえば、まさしく泥棒だ返す言葉もない、ってのは、原作ではキョンは自分とハルヒについて言っていて、ああ自分もとうとう泥棒の片棒かついじまった、という従犯意識溢れる物言いであるはずなんだけど、アニメだと傍観者としてハルヒを非難する言葉になっちゃっててさ。キョンが傍観者ヅラしてんのは口先だけで、我々が信用すべきなのはクラスメイト等の証言である、というのは原作ファンには既に常識ですが、どうもそのへんからしてアニメ版は変えて来ているように思われました。

#4(第七話)「涼宮ハルヒの退屈

あ…ありのまま 今まで 放送した事を話すぜ!
『4話を見たら知らないキャラクターと
見た事の無い回想シーンがあったんだ…』
な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
おれも 何をされたのか わからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
催眠術だとか超スピードだとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの 片鱗を味わったぜ…

 原作を知らなければこういう愉しみもあったであろうと思うと微妙に損した気分ですが、それはそれとして、なんだかホームコメディ。キョン君は心配性のお父さんのようね。
 それにしても、キョンハルヒに対するボヤキやら突っ込みやらがいちいち、びっくりするほど優しい。愛情に満ちていると申してよろしい。前回との落差が激しい気がするのですが、もしかして狙いましたか。というかちゃんと、ひと悶着あって落ち着いた後の話、というのが伝わる。
 ハルヒハルヒでなんかこう。空気が甘いわ。